市街地再開発事業では,地域住民との関係でのトラブルがしばしば生じますが,これに関する住民との訴訟としては,以下のようなものが想定されます。
①住民訴訟
例えば,地方公共団体が市街地再開発事業の実施主体となる場合や,事業について補助金を支出する場合など,事業について地方公共団体の出捐がある場合には,その差し止めを求める,支出相当額の首長への賠償請求や再開発組合等への不当利得返還請求を求めるといった,住民訴訟が提起されることがあります。
その場合の当事者は,公金支出の権限を有する自治体の長となります。ただし,補助金等の支出の相手方となっている市街地再開発組合は,利害関係を理由に,「補助参加」して自治体側の敗訴を防ぐための主張立証をすることが可能な場合があります。
②民事訴訟
例えば,市街地再開発事業により建設されるビルにより,住民の日照を阻害される,眺望や景観が害されるといった理由から,事業の差し止めや事業後の損害賠償等を求める民事訴訟が提起されることがあります。
これらは,住民個人の「人格権」を基礎とする訴訟ですので,住民ごとの人格権について,市街地再開発事業がそれを違法に侵害するものかが問題となります。
③行政訴訟
市街地再開発事業においては,市街地再開発組合の結成や,権利変換計画の認可といった場面で,都道府県知事の認可が必要となりますが,これは,「行政庁の処分」にあたります。
そのため,法律上保護された利益を有する者は,その取り消し等を求める行政訴訟を提起することができます。
一般的には,権利変換計画の内容について異議のある地権者等による提起が想定されますが,市街地再開発事業により利益を害される住民についても,個別の事情によっては,訴えの利益が認められることがあります。