セクシャルハラスメントにおける「会社」の使用者責任
セクシャルハラスメントは,発生した場合それを行った個人だけでなく,それを防止できなかったり,やめさせなかったことなどを理由に会社に対する責任(使用者責任)が問われることもあります。
セクハラ行為自体が,会社の建物・敷地の外であったり,勤務時間外(例えば慰労会・懇親会で行われていた場合や,プライベート空間で行われていた場合)であったとしても,職務の執行の「延長線上」等である,上司としての立場が利用されている等という事情がある場合は,法律上は,使用者としての責任が問われている事例も多々見受けられます。
企業における事前の予防・相談体制
まず,企業は,「良好な職場環境」で各従業員が就業できるよう配慮すべき義務があります。セクシャルハラスメントを,個人的な問題とするのではなく,日ごろからその防止のため,社内での周知を行ったり,苦情や相談に対応できる態勢をとる必要があります。
企業におけるセクハラ事案発生後の対応
また,実際に事件が発生したような場合,企業としては事実関係を正確に把握し,解決策を示していく必要があります。そのためには,当事者からの聞き取り等の調査が欠かせませんが,この中では当事者のプライバシーや二次被害の防止にも配慮する必要があります。
ただし,会社の人事・労務担当者等といっても,社内で「セクハラ」に関する聞き取り調査を多数経験されておられる方等ということは通常ありえないでしょうから,通常は弁護士等と十分に相談の上,聴き取りに関する対応を進めていく必要があります。また,実際にセクハラの事実が判明したときには,加害者に対して懲戒処分を行うことも考えられます。ただし,その処分の軽重は,一方当事者の言い分だけで判断するのではなく,種々の事情から慎重に判断しなければなりません。さもなくば,加害者がその効力を争うことも考えられます。
加害者を配置転換して被害者と接触しないようにすることも考えられますが,その場合も,加害者側から争われないようにする必要があります。一方,セクハラの事実があったのに何もしなかった場合等,被害申出にもかかわらず,会社が十分な対応を行わなかった場合には,被害者から会社が訴えられることもあり得ますので,何もしないことは避けなければなりません。
「迅速な事後対応」と弁護士からの助言の必要性
セクハラについて仮に裁判にまで至った場合も,被害者側からの申出後に,会社側がどのような対応をしたのか,しなかったのかについても,特に問題となります。「迅速な事後対応」がなされたのかについては,会社内の調査委員会のような組織が立ち上がったのか否か,誰が・誰に・いつ・対応を決め,どのように聴き取り調査がなされたのかについての全てが問われることを十分意識しておきましょう。