1.遺言作成後の状況や心境の変化
何年も前に一度遺言を作成したけれども,事情が変わったので,遺言の内容を変えたいという相談をお聞きすることがよくあります。具体的な事例としては,
・家族関係の変化(再婚した,子が先に死亡した,新たに養子を迎え入れた,内縁関係のパートナーが新たにできた等)といった事情の変化や
・全てを相続させようとした子供と遺言者との関係の悪化
・事業を継がせようとした子へ承継しないこととすべき事情の発生
・ご自身の財産関係が変化した場合
などが挙げられます。
こうした場合,遺言を「書き直す」必要があり,これを遺言の撤回と呼んでいます。
2.遺言の撤回
民法では,遺言を撤回する場合も,「遺言の方式に従って」しなければならないとされており,必ず,適切な方法で,新たな遺言を作成する必要があります。具体的には,過去に作成した遺言を取り消す(撤回する)旨を示し,必要があれば新しい内容を含む遺言を作成する必要があります。
なお,「撤回する」旨を示していない場合であっても,新たな遺言の内容が前の遺言と矛盾するときは,矛盾する部分については,後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされますが,撤回する意思を明確に示す上では,「撤回する」旨を明記した遺言を作成するほうが確実です。
また,当初に作成した遺言が公正証書遺言の場合であっても,自筆証書遺言の場合であっても,それを撤回して,新たに作成する遺言は,どちらの方式を用いても構いません。
公正証書遺言を撤回する場合は,過去に作成した遺言と,新たに作成した遺言の両方が残りますが,各相続人は,一つの公証役場で照会をすることで,全国どこの公証役場で遺言がされていても,その有無を検索し,確認することが可能です。
3.自筆証書遺言で作成している場合
過去に作成した遺言が自筆証書遺言である場合は,上記のほか,遺言者自身が破棄をするという方法で,遺言の撤回をすることも認められています。
4.撤回したとみなされる場合
このほかに,遺言者が,遺言後に,財産の生前処分等の遺言と矛盾する行為(例えば,子供に相続させると遺言に記載した財産をその子供以外の者に譲渡するなど)をした場合や,遺言により遺贈することとしていた財産を破棄した場合にも,矛盾する部分や破棄する部分については遺言を撤回したものとみなされます。