Q 質問
遺留分侵害額請求権は、1年以内に行使しないと消滅時効にかかると聞きましたが、詳しく教えてください。
A 回答
遺留分侵害額請求権も、これを行使しなければ時効で消滅してしまします。もっとも、段階ごとにルールが異なるため、2通りのケースに分けて説明いたします。
1 遺留分侵害額請求をする旨の意思表示をするまでの間
(1)消滅時効の期間
遺留分侵害額請求権は、「遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年」または「相続開始の時から10年」を経過したときに消滅します(民法1048条1項)。
この場合、わずか1年間で消滅時効が完成してしまうことから、早期に、かつ確実に遺留分侵害額請求権を行使しなくてはならないため、消滅時効については細心の注意が必要です。
(2)消滅時効の完成を防ぐために
この場合、遺留分侵害額請求をする旨の意思を相手方に表示すれば、消滅時効の完成を防ぐことができ、次の「2」で述べる段階に進みます。ここでは、裁判所に訴えを提起することなどは必要とされていません。
また、口頭での意思表示も可能ではありますが、内容証明郵便を用いて、遺留分侵害額を請求したことを客観的に明らかにすることが通常です。
2 遺留分侵害額請求をする旨の意思表示をした後
(1)消滅時効期間
遺留分侵害額請求をする旨の意思表示をした後は、遺留分侵害額請求権は、一般的な金銭債権と同じものと扱われます。
そのため、通常の貸金債権などと同様に、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」で、消滅時効が完成することとなります(民法166条1項1号)。ここでいう「債権者が権利を行使することができることを知った時」とは、通常、遺留分侵害額請求をする旨の意思表示をした時を意味します。
(2)消滅時効の完成を防ぐために
一般的な金銭債権と同様、時効の完成猶予・更新の規定(民法147条~161条)が適用されます。
特に重要なルールのみを挙げると、以下のようになります。
【催告について(民法150条)】
催告をした時から6か月を経過するまでの間、消滅時効の完成が猶予されます。ただし、時効の完成が猶予されている期間に再度の催告をしても効果は生じません。
【訴訟・調停について(民法147条)】
① 訴訟や調停が続いている間は、消滅時効は完成しません。
② また、その訴訟または調停において、確定判決またはこれと同一の効力を有するもの(※訴訟上の和解、調停調書など)によって権利が確定したときは、これまでの時効は更新(リセット)されて再度進行を始めます(同条2項)。更新後の消滅時効期間は10年となりますので(民法169条1項)、その間に差押えをするなどして支払を確保します。
③ 逆に、権利が確定しないまま訴訟・調停が終了した場合(※訴えを取り下げた場合など)には、その終了時から6か月を経過するまでの間、消滅時効の完成が猶予されます。
以上のとおり、催告をしたとしても消滅時効の完成が最大6か月延長できるにとどまります。そのため、示談交渉での解決が期待できない場合には、訴訟または調停によって権利を確定していくこととなります。