Q 質問
全財産を兄に相続させる旨の遺言があり、また、生命保険金やその他の保険商品も兄が承継することになりそうです。遺留分の侵害額請求における取り扱いを教えてください。
A 回答
- 生命保険について
まず、一般的な生命保険については、最高裁判所の平成14年11月5日判決が、死亡保険金の受取人を変更する行為は(当時の民法1031条の)「遺贈又は贈与に当たるものではない」とされた結果、原則として、遺留分減殺請求(当時)算定の基礎となる財産に参入することは出来ないとしました。その理由は、死亡保険金請求権は,指定された保険金受取人が自己の固有の権利として取得するのであっ て,保険契約者又は被保険者から承継取得するものではなく,これらの者の相続財産を構成するものではないというものなどです。生命保険金については、現在もこの考え方踏襲されています。養老保険(死亡すれば死亡保険金が発生するが、満期に至れば満期保険金が生じるもの)についても同じ考え方があてはまります。
ここでは、遺留分の計算にあたっては、被相続人から相続又は生前贈与により、承継的に取得するものがその対象になるという考え方が、基本的枠組みになっています。
- それ以外の保険商品(年金保険契約など)
現在、年金保険契約などいった商品が保険会社によって販売されています。これらは、Aさん(保険契約者・被保険者)が一括払又は各月払い等の形で保険料を支払い、そのAさんが年金支払期間(たとえば65歳や70歳といった時期がスタートになることが通例です。)に達したとき、毎年(または毎月)の年金支払い日になると年金が支払われることになり、もし、その年金支払期間の途中でAさんが死亡した場合には、特定の指定された受取人(Bさん)が、「残余年金支払期間」の「未払年金の現価」といった額を受領するといった保険商品です。たとえば65歳から20年間を「年金保険」を受給することができる保険の場合、85歳まで存命であれば、Aさんが「年金」を受給することが可能となりますが、途中で死亡した場合、予め指定されていたBさんは「継続受取人」という形で、同様の額を受け取ることが可能になります。
つまり、これらの保険を、上記Bさんが受け取ることができるのは「継続受取人」というの地位であり、上記Aさんが既に受給を開始していた地位を引き継いでいるというところに、生命保険との大きな違いがあります。こうした保険商品を、下級審の裁判例で争われた事案はあるものの、最高裁判所の判例として、明確な取り扱いが決まっているものではありません(地方裁判所等が出した個別の裁判所の判決は、他の裁判の先例拘束性があるものではないため)。そのため、現時点では「遺留分の算定の基礎となる財産」に含むことが出来るという立場、含まないという立場、それぞれを訴訟のなかで主張を繰り広げることになります。
- 保険商品の複雑化
これ以外にも、高齢者が契約する保険商品や金融商品は複雑化しております。単純な「生命保険」以外の場合には、どのような商品なのかを、個別に検討することが重要と言えます。
- 調査方法
なお、こうした保険の有無にあたっては、23条照会という形をとって、訴訟を提起する前に事実関係の調査を行うことが一般的です。保険会社の判断にもよりますが、少なくとも、被相続人が加入していた保険商品の内容や契約日、死亡前に支払われた保険料などは開示されることが多いと言えます。