行政不服審査については,平成28年4月1日から施行された改正行政不服審査法のもと,自治体ごとに対応に当たられていると思われます。
1 審査手続き
(1)審査請求
審査請求は,請求人が,審査庁(通常は処分行政庁の最上級行政庁)に対して所定事項を記載した請求書を提出して行います。
審査請求がされると,まず,審査庁により,審理員が指名されます。
審理員は,審査庁の職員の中で,処分に関与していない等の要件を満たすものから選ばれます。
(2)審理員による審理
① 総論
審理員は,具体的な審理手続においては,審査庁からの指揮監督を受けることなく,自らの名において審理を実施します。
② 弁明書の提出
まず,審理員は,処分庁に対して,弁明書の提出を求めます。
処分庁は,処分(またはその不作為)の内容及び理由等を記載しなければなりません。
③ 主張
審査請求人は,弁明書を踏まえて,反論書を提出することができます。一方,利害関係があるとして参加を申し出た参加人は,意見書を提出することができます。
④ 争点の整理
審理員は,審査請求書,弁明書,反論書,意見書等の主張や証拠を踏まえて,事実関係や双方の主張の整理を行います。
⑤ 口頭意見陳述
審査請求人は,口頭で審査請求に係る事件に関する意見を述べるための口頭意見陳述を実施するよう求めることができます。また,口頭意見陳述では,処分庁等に対し,審査請求に係る事件に関する質問をすることもできます。
⑥ 証拠の提出
当事者,処分庁は,主張を裏付けるために,証拠書類や証拠物を提出することができます(法32条)。また,審理員は,審査請求人や参加人の申立てまたは職権により,書類その他の物件の提出を所持者に要求できます(法33条)。
⑦ 審理員の権限
審理員は,審査請求人・参加人の申立て又は職権により,審理関係人に質問を行ったり,検証や鑑定を行ったりすることができます(法34ないし36条)。
また,処分の執行停止をすべき意見書を提出することもできます(法40条)。
⑧ 書類等の閲覧等
審査請求人等は,審理員に対して,提出書類等の閲覧および写しの交付を求めることができます。
⑨ 終結
審理員は,必要な審理を終えたと認めるときに審理手続を終結し,裁決について意見書を作成し,事件記録とともに審査庁に提出します。
(3)審査会等
・審査に関する第三者機関(審査会等)
行政不服審査法は,国の行政庁が行う審査について,①審査庁の職員たる審理員による審理,②行政不服審査会(総務省所管の審議機関)への諮問・意見,③審査庁の裁決という流れを規定しています。
そして,この流れは,地方公共団体についても同様にとるべきものとされ,行政不服審査法上,地方公共団体は,原則として,執行機関の附属機関としての審査機関を置くこととされています。多くの自治体においては,「○○行政不服審査会」といった名称の合議体を条例により設置しているものと思われます。
なお,小規模な自治体においては,地方自治法上の広域連携制度(一部事務組合,事務の委託等)を活用して設置する方法のほか,例外的に,条例に基づき事件ごとに設置することも認められています(行政不服審査法81条2項)。
・審理手続
① 諮問
審査庁は,審理員から意見書の提出を受けたときは,処分や採決時に審議会や議会の議を経る場合や,請求を却下,全部認容する場合等を除き,行政不服審査会等に諮問しなければなりません(行政不服審査法41条1項)。
② 審理
審査会等の基本的な役割は,審理員意見書及び事件記録等を基礎として,審理員の判断に誤りがないか等を検討することとなります。
ただし,審査会等が必要と認めた場合には,審査請求人,参加人又は審査庁に主張書面や資料の提出を求める等の権限があり(行政不服審査法74条),また,審査関係人は自ら主張書面や資料を提出できます(同76条)。また,審査会等が必要ないと認めた場合を除き,口頭意見陳述の機会を与える必要があります(同75条1項)。
③ 答申
審査会は,審理員意見書等の資料のほか,審査関係人の追加主張等があればそれらも踏まえ,審査庁に答申を行います。また,その写しを審査請求人及び参加人に送付し,内容を公表します(行政不服審査法79条)。
(4)裁決
審査庁は,審理員の意見書及び行政不服審査会等の意見を踏まえて,審査請求に対する裁決を行います。
なお,請求を却下ないし棄却した場合,請求人は,訴訟提起ができます。
また,このほかに,法律上特に認められている場合(例:道路法96条では,審査庁が市町村長の場合は都道府県知事,都道府県知事の場合は国交相に再審査請求できる。)には,裁決を知ってから1カ月以内で再審査請求ができます(行政不服審査法6条,62条1項)。再審査請求も,原則として審理員により行われますが,行政不服審査会への諮問が行われない等の違いがあります。
* 審理員をおかない場合の手続き
教育委員会,公安委員会,監査委員等が審査庁である場合や,条例に基づく処分で条例上特別の定めをしている場合には,審理員による審理や行政不服審査会等への諮問は行われません(法9条但書)。
その場合,審査庁が自ら審査を行うことになりますが,その場合でも,審査庁は,その職員に関係者の口頭意見陳述を聞かせたり,関係者への質問をさせたりすることができます。また,処分行政庁において弁明書の作成が必要となることや,審査請求人等の関係者が主張,証拠を提出できることなど,審理員による審理と比べて,その流れが大きく変わるわけではありません。
2 当事務所の取扱業務
① 弁明書等の作成
処分を行った行政庁は,審査請求について,「弁明書」を審理員に提出する必要がありますが,これは,審理員が処分の適法性,相当性を理解して,審査請求を退けられるような内容とする必要があります。また,審理員の定める「相当の期間」内に提出する必要があり,時間的に短期間での作成が求められます。
さらに,弁明書提出後も,審査請求人から追加主張がされた場合には,これに対する反論も要求されます。
この点,行政庁においては,処分に至る事実関係や個別の行政法についてはよく理解されていることと思いますが,行政庁の認識する生の事実関係から,どのような事実が認められ,それによりなぜ処分が適法となるのか,を説得的に記載するのは,難しい点も多いかと思われます。
当事務所では,これらの,生の事実からの事実認定,処分の適法性の理論展開について,当事務所での書面作成や,行政庁の書面作成のサポート等の業務を行います。
② 審理員及び審査会に対する立証活動
審理員が処分の適法性,相当性を理解して,審査請求を退けられるようにする上では,基礎となる事実認定について,証拠資料に基づき,処分庁の認定が正しいという心証を得る必要があります。
当事務所では,民事訴訟における立証活動と同様に,証拠資料を通じた事実の立証について,書面作成や,そのサポート等を通じて処分庁をサポートする業務を行います。
③ 審査請求後の訴訟対応
審査請求が却下ないし棄却された場合,審査請求人になお不服がある場合には,行政訴訟となります。
この点,当事務所は,行政案件の十分な知識及び経験を有する弁護士により,訴訟対応を行いますが,さらに,上記の審理手続について取り扱っている場合には,争点等を予め理解しており,より迅速かつ効果的な訴訟活動ができます。