仮差押え・仮処分

1 仮差押え
(1)仮差押えとは
金銭の支払いを目的とする債権について,強制執行ができなくなるおそれがあるとき,又は,強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに申し立てることができます(民保20条)。
例えば,自治体の有する債権について,その回収のための判決等を得たとしても,それまでに債務者の財産が失われれば,強制執行による回収ができなくなってしまいます。そのため,判決等を得る前に,債務者の財産を仮に差し押さえます。仮差押えの対象は,不動産,動産,債権など原則として債務者の所有にかかる全財産で,仮差押えがされると,不動産等であれば処分が禁止され,第三者に対する債権(預貯金等)であればその債権の債務者による弁済(預貯金の払戻等)が禁止されます。

(2)手続きの概要
概ね,以下のような流れで行います
① 申立ての準備
申立書や添付書類の準備のほか,自治体の場合,担保の提供等の公金の用意に,予算措置等,特に準備や時間を要することが多いと思われますので,その準備も必要です。
なお,自治体の場合,訴えの提起には議会の議決が必要ですが,民事保全手続きはこれに当てはまりません。
② 申立書などの提出
③ 裁判官面談
この際,疎明が不十分だと,追加資料を求められることがあります。
④ 担保決定
通常,裁判官との面談時に指示されます。担保の金額は,仮差押対象の財産の価額を基礎として,物の種類や保全すべき債権の種類,保全の必要性等を考慮して決まります。事案ごとに弁護士に相談し,金額の目安を事前に立てるのが有効です。
⑤ 担保を立てる
法務局に出向いて供託手続きを行い,供託書を受領します。担保決定で指定された期間内にする必要があり,通常は1週間以内などと短期間です。
⑥ 決定正本の受領
地方裁判所の命令係に供託書の写し(照合のため原本も持参する)等を提出し,決定を受領します。なお,不動産仮差押えの場合は登記用登録免許税として収入印紙を提出します。
⑦ 保全の執行
不動産であれば裁判所が登記嘱託を行い,債権であれば裁判所が第三債務者に仮差押決定を送達します。動産の場合は,債権者が執行官に申し立てて執行します。

(3)自治体の活用方法
自治体においては,債権回収のため仮差押えを利用することは多くないかもしれません。ただし,財産隠しのおそれ等がある債務者については,仮差押をしなければ,財産が処分され,十分な債権回収ができない危険があります。特に,自治体の場合,訴訟提起に議会の議決を得る必要がある等,法的手続きには時間がかかるため,その間に財産処分をされる可能性も高まると思われます。
また,地方自治法施行令上,地方公共団体の長は,債権を保全するため必要があると認めるときは,債務者に対し,仮差押え若しくは仮処分の手続きを採る等の措置を採らなければなりません(171条の4第2項)。この規定は公債権,私債権双方に適用があります(但し,強制徴収可能な公債権は,行政庁が滞納処分をすることができますので,これらの手続きを取ることはありません)。
したがって,債権回収の手段として,仮差押えの活用は必要かつ有効な手段といえます。ただ,実際の申立てでは,債権の存在及び必要性を「疎明」(一応の立証)する必要もあり,また,裁判所等に対する手続きが多岐にわたるため,弁護士に委任するのが適当です。

2 仮処分
(1)仮処分とは
民事保全法では,仮差押えのほかに,仮処分として,「係争物に関する仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」があります。
「係争物に関する仮処分」は,特定の物について給付請求権を有し,かつ,物の現在の状態の変動により,将来の権利行使が不可能又は著しく困難になるおそれがある場合に,目的物の現状維持のために必要な暫定措置をします。
例えば,特定の財産の明渡しを求める場合に,第三者を介在させることによる妨害等に備えるためにその占有の移転を禁止したり,財産の所有権に争いがある場合に,財産処分を禁止したりすること等です。
後者は,権利関係に争いがあるときに,暫定的な権利関係を定めるものです。例えば,街宣活動や工事妨害等の迷惑行為の差止や,財産の仮の明渡し,金銭の仮払い等があります。

(2)手続
概ね仮差押えと同じですが,以下の点で注意が必要です。

  • ・ 係争物に関する仮処分では,登記により処分を禁止する場合等は裁判所から嘱託しますが,占有の移転を禁止する場合は,債権者から執行官に,仮処分の執行(現地等で占有移転禁止のための措置をする等の手続き)を申し立てる必要があります。
  • ・ 係争物に関する仮処分の場合,上記③の裁判官面談について,原則として,債務者を呼び出して,債務者が裁判所に出頭できる「審尋」を経る必要があります。

(3)自治体における活用方法
自治体が債権者となる事案としては,例えば,

  • ・ 自治体の有する不動産等の明渡しを求めるための,占有移転禁止の仮処分
  • ・ 自治体の売り渡した不動産を,買戻し特約等により取り返す場合の,処分禁止の仮処分
  • ・ 自治体の執務の妨害(例えば,庁舎周辺での違法な街宣活動等)や工事の妨害を排除するための,差止の仮処分

また,自治体が債務者となる事案としては,以下のような事案が想定できます
・ 自治体所有の施設の使用妨害禁止の仮処分申し立て

仮の地位を定める仮処分は,訴訟よりも迅速に,訴訟と同様の解決を図ることができるというメリットがあります。
一方,自治体が債務者となる場合,迅速な準備・反論が不可欠です。